「ドイツで働く」をテーマに、ジェイ エイ シー リクルートメント ドイツのシニアコンサルタントが、ゲストと対談いたします。
第1回は、日独働く女性の会(GJ-PWN)代表の江塚照美さんをお招きし、ドイツで働く女性のキャリアパスについて語り合います。
「今の会社に10年以上勤めているが、ポジションが変わらない」
「キャリアアップの道筋が見えない」
海外で「現地採用」というポジションに就いたことのある人なら、きっと身に覚えのあるお悩みのひとつ。実際、「日独働く女性の会」の会員の皆さまからも、こういった声が多く寄せられると江塚さんは言います。
日本とヨーロッパ各国でキャリアを積み、今まさに「現地採用」として働く二人は、当事者としてどのような経験と想いを持っているのでしょうか。コロナ禍において激変する社会でどのようにキャリアの可能性を広げ、人生を充実させていくか。答えのない問いに、真正面から向き合いました。
鈴木:私自身も、ドイツのジェイ エイ シー リクルートメントに現地採用されている立場です。そのうえで、大人になればなるほど、仕事やキャリアについて率直に悩みを相談する相手や機会を得るのが難しいと実感しています。日独女性の会の活動は、ニュースレターを通してずっと追っていましたが、今年から活動をさらにアクティブにしていくそうですね。どんな活動をしていくのか、ぜひ詳しくお話を聞かせてください。
江塚さん: 2014年に立ち上げた日独働く女性の会は、DJW(日独産業協会)の分科会のひとつという立ち位置にあるんですけど、ちょうど今年から独自のウェブサイトを持って、さらに活動を広げていくつもりです。
鈴木:この会を立ち上げたきっかけについても、教えてください。
江塚さん:私自身の経験がきっかけです。ドイツの日系企業に現地採用され、管理職として働いていた当時、働く女性として子育てをしながら管理職の仕事も続けるって難しいことが多くて、本当に色々なことで悩んでいました。
でも、そのことを相談できる相手がいなかったんです。もちろん、友達に愚痴をこぼしたりはしていたんですけど、もっと客観的に他社比較や情報収集ができて、ビジネスライクに話し合える仲間と出会える場があればいいなあと思って。探したけど見つからなくて、ないのであれば自分で立ち上げよう!と、そういう動機からこの活動を始めました。
鈴木:具体的にはどのような活動を行っているんですか?
江塚さん:メンバーの皆さんが集まる場を提供し、テーマに沿った話し合いをしています。多様な働き方をしているメンバーがいるので、例えばフリーランサーを対象にしたり、日独の会社で管理職として働く方が集まる会を開いたりしています。テーマや活動内容は、その時々の会員の皆さんのリクエストに応じて決めています。
また、現地のパートナーがいらっしゃる日本人メンバーのなかには、日本の仕事を辞めてドイツに来たけど、子育てをして何年も経ったら社会復帰が難しくなったという人も少なくありません。そういう方をもう一度社会と繋げるサポートもしたいと思っています。その一環として、企業の協力を得て、会議室をお借りして会合を開くという試みもしています。
―現地採用。その後のキャリアにはどんな可能性がある?
鈴木:先週はまさに「ドイツにおける現地採用 日本人のキャリア」というテーマでオンラインイベントを開催されたそうですね。
江塚さん:「ドイツでもう何年も、それこそ10年以上働いているけど、なかなかキャリアパスが見えてこない」「今後どうしようか悩んでいるが、そもそも現地採用後のキャリアはあるのか」という声をこの会の活動を通してたくさん聞いてきました。
今回の参加者は、皆さん日本人の女性だったんですけど、もしドイツに渡らずに日本で働いていたらどんなキャリアを積んでいたんだろう?企業に勤め続けていたらきっと30代後半から40代の社員には、それなりのキャリアパスが用意されているんじゃないか、とも考えられるわけです。
でも、ドイツに来てしまうと、また一からキャリアをやり直さないといけない。しかも日系企業なら駐在の方もいるので、現地採用の日本人のキャリアパスというのはなかなか見えてきません。
それでも、勤め先の意向と本人の希望が合致してキャリアを積むことができている現地採用の方もいらっしゃいました。それぞれが経験を共有しながら、今後の生活やファミリープランまで考えて、「本当に私、キャリアを積みたいのかな……」という声も出るなど、人生をテーマにした話し合いになりました。
鈴木:誰かが誰かにアドバイスをするというより、参加者が自分の経験を話し、それに対してほかの参加者がコメントするような感じですか?
江塚さん:そうです。「こうしたらいいんじゃない?」と言うよりは、考えを共有し、ほかの方の話を聞いていくなかで、新しい気づきを得られるとか、刺激を受けるということを目指しているんです。
鈴木:そういう機会、実はすごく大事ですよね。
江塚さん:キャリアパスは、誰かが決めるものではなくて、その人自身が決めていくものですし。例えば、もうその会社に15年勤めていて、社内でもいろいろトライしたけど自分のキャリアパスが見えてこない、でももっとキャリアを積みたいという意志がある参加者に対しては、転職するという選択肢もあるよ、こういう可能性もあんな可能性もあるよと、それぞれの経験や意見を交換します。もちろん、それをどう受け止めるかは個人の判断です。
―自分が求めるライフプランからキャリアについて考えよう
鈴木:本当に「キャリア」といっても人それぞれで、思い描くものは一つではないというのは、日々感じていることです。役職が上がることを目指す方もいれば、専門性を磨くことを重視される方もいらっしゃる。
私は仕事柄、ドイツで転職したい、就職したいという希望を持った方からご相談をいただいて、弊社でお取り扱いがある求人案件をベースに、「こういったオプションがありますよ」とか、「そういうご希望には求人がないんです」といったアドバイスをさせていただきます。そのなかで、お役に立てる場合もあれば、やっぱりそうではないケースもあります。
現実問題として、日本では大きなメーカーさん、商社さんだとしても、海外拠点の一つであるドイツのオフィスは規模感としては小さいケースが多いんです。冷静に考えて、10名未満の規模の事務所のなかで、スタッフから始まって、課長になって部長になって、社長になってっていうキャリアパスがあるかというと……。
江塚さん:ありませんよね。
鈴木:ドイツの日系企業に現地採用された場合、細かいステップを刻んでキャリアアップしていくのは現実として難しいんですよね。入社前にはなかなか見えにくいことですが。
転職によってご希望に近いところに移れるケースもあれば、そうではなく、実は今いる会社の中でもやれることはまだあるのに、そのことをうまく会社と話し合えていなくて、ずっと同じ状況が続いているというケースもありました。
例えば、今までアウトソースしていた業務があるとして、その業務に必要な専門知識をその方ご自身が身につけることによって、会社でできる業務が広がり、結果的にキャリアアップを実現できる可能性もあります。
自分のキャリアや働き方についてどんなオプションがあるのか、誰にも相談しないで一人で考えるのは限界があります。この仕事をしていて良かったなと思うのは、「そういう選択肢もあったんですね」「そういう方法もあるんですね」って気づいていただけることです。
江塚さん:よく分かります。自分の置かれた状況や悩みが自分一人だけのものじゃなく、ほかの方も似たようなことを考えているんだと分かると、それだけで安心できるというか。共有の場って必要だなと思います。
鈴木:一方で、私が今でも悩ましいと思っているのは、やっぱり優秀な女性が多く、海外で働きたいと思っている方も大勢いらっしゃるなかで、なかなかそれに見合う仕事、求人の数が圧倒的に少ないということです。
独立・起業したり、フリーで仕事をしたり、働き方は色々あるとは思うんですけど、ドイツで就職した先のキャリア、その選択肢の少なさが課題としてはあります。そういうことについて、ある程度は自覚していただいたうえで、本当にドイツで働くのかどうかを考えてみてください、と。特にこれからドイツで働きたいという希望をお持ちの方には、伝えています。
江塚さん:そうですよね。特に女性の場合はライフステージによって仕事にかけられる時間やエネルギーが変動するので、キャリアを追うことが本当に自分にとっての幸せか、ということも、男性以上に考えているところはあると思います。また、そういう意味では、今はまだ男性が就いていることが多い管理職のポジションに、そのままの形で就きたいという女性は限られているかもしれません。やっぱり今回の会でも話したように、自分の人生をどう生きていきたいかだと思います。
鈴木:本当に私も、候補者の方に聞かれる立場ではありますけど、「どうしたらいいか」ということの答えを持っているわけではないので、一緒に悩んでしまいます。
江塚さん:私も会員の方にアドバイスを求められたりもしますが、彼女たちから主催者側の私が学ばせてもらっているし、刺激を受けています。
―ドイツは欧州一、チャンスの多い働きやすい国
鈴木:海外で働きたい、特に欧米で働きたいということを考えた時に、ビザなど現実問題をクリアして就職チャンスがある国は限られています。ドイツはその中で、数少ないチャンスのある国なので、世界中からお問い合わせをいただきます。とはいえ、ドイツで長く働いていると、いいことばかりじゃないなということも分かってくるじゃないですか。
江塚さん:そうともいえますね。
鈴木:もちろん、いいこともありますよ!でも、だからこそ、ドイツでこれから仕事を見つけたいという皆さんに向けて、知っておいて欲しいことやメッセージを、ぜひお願いします。
江塚さん:ドイツってヨーロッパのほかの国と比較しても働きやすい国であることは確かだと思います。例えば、ドイツ語ができなくても、英語と日本語でお仕事されている方も結構いらっしゃるんですよね。フランスやスペイン、もしくはイタリアと比べると、そこのハードルが低いと思うんです。現地語ができなくても、就職先が見つけやすいということは一つあると思います。
キャリアという視点では、先ほども話題に上ったように、現地採用という立場になると、日本で10年、20年と働いた場合のキャリアと同等のものをこちらで見込めるかというと、限られた人にしかそのチャンスはないと思うんですよね。
大事なことは、情報収集を事前にしておくことだと思います。そして、自分が何をどうしたいか。人生設計の中で、ドイツに来るという選択肢が一つあったとして、長期的な滞在を考えているのか、短期なのか。もちろん、短期のつもりで来て長期滞在になっちゃったっていうケースもたくさん知っていますけど。その時その時の状況に応じて情報収集をしていくことが大切です。
日独働く女性の会を通して、いろいろな会社に勤めている女性と出会って、日系企業の現地採用ポジションでも各社様々だと知りました。
鈴木:本当におっしゃる通りで、各社の社風によってもずいぶん違いますし、駐在員のいない日系企業もあります。いろんな可能性を知ると、改めて人生を考える機会にもなりますね。今後、日独女性の会でやりたいことは、どんなことですか?
―「日独女性の会で一緒に学びましょう!」(江塚さん)
江塚さん:今回のイベントは、私たちにとって第一回目のオンラインでのイベントだったんですけど、少人数に限定して開催したこともあり、とてもいい感じで、すごくスムーズにできました。今後は2カ月に一度くらいのペースで開催しようと思っているんです。
テーマは、メンバーの希望を聞きながらアレンジするんですけど、今リストに上がっているのは:
日独の架け橋の会:ドイツ人マネージメントと一緒に働く日本人、また日本人マネージメントと働くドイツ人など、日本とドイツの架け橋となる仕事をしている人の会。
フリーランスの会:フリーで働いていらっしゃる方の悩みは、会社員とはまた全然違うものがあります。過去にも開催して好評だった会で、次回はコロナ禍での仕事についてなどをテーマに。
自分の強みを見つける会:「私にはできることが少なくて……」という方が結構いらっしゃるんですけど、自分のできることって当たり前すぎてそれを能力や強みとして認識していない場合もあるんです。それを、参加者同士で見つけ合う会。
働き方改善の会:コロナの感染拡大に伴って、半強制的に在宅勤務に移行しました。これからの働き方も大きく変わると言われている中で、自分たちにとってベストな働き方を考える会。
鈴木:テーマが幅広いですね。
江塚さん:日独働く女性の会で私が大事にしていることは、自分の悩みや課題について考える機会にしていただきたいということです。そういう場が欲しくて立ち上げた会ですが、この会の活動を通して私自身が学んでいます。
仕事や人生について真剣に考えていらっしゃる方々と定期的にお話し、イベントを企画したり、司会をしたり、ウェブサイトを立ち上げたり……自分の履歴書に書けるようなスキルではないかもしれませんが、こういう活動を通して自分の能力も自ずと高まっていくと思うんです。
これからも、ぜひ多くの方に参加していただき、また、関わっていただきたいと思っています。
そして、能力も経験もある輝く女性をプレゼンテーションできるような場でありたい。実は私、鈴木さんに刺激を受けて、自分もインタビュー取材をしてみようと思っています。
鈴木:どんな方がご紹介されるのか、楽しみです!「ドイツで働く」という共通のテーマがありますし、今後も何か一緒にできることがありそうですね。
江塚さん:そうですね。鈴木さんのような人事のプロフェッショナルとお話する会など、またご一緒しましょう。
鈴木:本日はありがとうございました!