ダヴィンチインターナショナル X JAC Recruitment
「ドイツで働く」をテーマに、ジェイエイシー リクルートメント ドイツのシニアコンサルタント鈴木が、ゲストと対談いたします。
第5回は、ダヴィンチインターナショナル代表取締役の松居温子さんにお越しいただきました。
ものづくりの国としても知られるドイツ。この国には職人を育てる土壌があります。職人の国家資格取得のためのプログラムに参加するためにドイツに渡る日本の若者をサポートしているのがダヴィンチインターナショナルです。
小さな頃から抱いていた夢、パン屋さんやお菓子屋さん、お花屋さん……、その道を極めるためにどんなルートをたどっていけば良いのか、皆さんは想像できますか?
日本ではなかなか見えにくい職人として働く道ですが、ドイツでは国家資格が整備され、長い歴史の中で「職人」がプロフェッショナルとして社会的地位を確立しています。さらに、職人だけには止まらず、ドイツにはそのプロフェッショナルになる道は営業やサービスの分野など多岐にわたっています。
手工業の分野はもちろんのこと営業・サービスの分野のプロを目指している人ための海外留学と就職をサポートするダヴィンチインターナショナルと、海外での就職・転職をサポートするジェイエイシー リクルートメント。海外生活のはじめの一歩をサポートする両者の対談となりました。
JACのコンサルタントは、転職支援に加え内定確定後のサポートも行っております。
転職をご検討中の方は、新規登録のうえ、ぜひご相談ください。
鈴木:本日はお越しいただきありがとうございます。早速ですが、松居さんのご経歴と、ダヴィンチインターナショナル設立に至る経緯を教えてください。
松居さん:私は慶應大学法学部を卒業後、日本銀行に勤めました。司法試験に挑戦した時期もありましたが、その後、いくつかの会社で複数の職務経験を積み、教育関係の会社でアメリカでビジネス経験のある高野(共同代表 高野哲雄さん)と出会い、一緒に仕事をするようになりました。
そこで、親御さんから進路についての相談を受ける立場となったのですが、子ども達の夢って、良い学校や大学に進学することだけじゃないんですよね。けれど、その夢を叶えようと思ったら、なかなか難しい。進むべきルートが非常に少ないんだなと、日本の社会の課題として認識しました。
もともと私は8歳から14歳までドイツで育ち現地校に通っていたこともあり、高野にドイツのマイスター制度について話したことがありました。すると、「これだ!日本の若者達にチャンスを作っていけばいいじゃないか」とドイツの職人育成プログラムに希望を見いだし、2013年に一緒に会社を立ち上げ、ドイツ事務所を設置し現在に至っております。
―ドイツでスペシャリストに!どんな職種がある?
鈴木:ダヴィンチインターナショナルのメイン事業は、日本からドイツに留学して、職人や職業人のプロとしての国家資格取得を目指す方々のサポートですよね。
松居さん:そうです。一人前の職人や職業人のプロとして認められるドイツの国家資格「ゲゼレ」取得を目指すプログラムをご案内しています。6カ月間のドイツ語研修の後、就職先での職業訓練・研修と職業学校での授業を並行して受けるデュアルシステムで学び、研修期間終了後にゲゼレ試験を受けます。
鈴木:日本だと、「マイスター」という言葉は聞いたことがあるかもしれませんが、「ゲゼレ」についてはあまり知られていないのではないでしょうか?
松居さん:そうなんです。そもそもドイツの情報はほとんどなく、質問やお問い合わせが多いため、弊社ではYouTubeやFacebookなどのSNSで情報発信をしています。今はYouTube経由での問い合わせも多くなり、質問の内容も多岐にわたります。ドイツ移住とか就職の相談も受けるので、そこは今後、御社にお繋ぎしたいです。
鈴木:ぜひ、お願いします。日本からの参加者に人気の職種は何ですか?
松居さん:製パン、製菓、食肉加工といった分野はメジャーな分野になりますが、参加希望者は20代〜30代、専門学校を出て就職していた方が多いです。食肉加工の大手に勤めていた男性は、企業の中では思い描いていたようなものづくりがされておらず、「本当に美味しいものを作りたい!」と、プログラムに参加しました。彼は、ゲゼレになった後、食品開発のコンサルタントとして日本で活躍しています。彼が本当にやりたかった仕事を自分の力で切り拓きました。
鈴木:素敵なキャリアパスですね!
松居さん:製菓は、「自分のお店を持ちたい」という目標を持つ女性が多いです。日本ではまだまだ知られていないドイツの焼き菓子を学んで、実際に日本で開業する夢を実現された方もいらっしゃいます。
食に関係のない分野ですと、整形靴があります。日本では義肢装具士の仕事と捉えられていて、まだまだ遅れている分野なんですが、だからこそ整形靴を学びに来る若者たちの志の高さには私達もものすごく感銘を受けます。
おじいちゃん、おばあちゃんになって歩きにくくなった人を支える靴、病気で歩行困難な人のための靴などを作り、歩けなかった人が歩けるようになる瞬間に寄り添う。歩くことは人を自由にすることに直結するので、やりがいのある仕事だろうなと思います。
最近では、営業サービス系の職種も増えてきており、ホテル専門マネージメントや国際フォワーダーなどのサービスや営業のプロを目指す人のサポートも行っています。今年は手工業ですと日本酒製造を長年してきた参加者がワイン醸造を目指したり、営業系のプロを目指す人の参加者もいて、その職種は年々増えてきております。
―プログラム参加者に求められるドイツ語レベルは?
鈴木:プログラム参加者のほとんどが、もともとドイツに縁があったり、ドイツ語ができたりするわけではないですよね?具体的にどういったサポートをしているんですか?
松居さん:希望者の中から「この人ならやり遂げられるだろう」という人物を審査の上選考し、プログラムに参加してもらっています。ドイツに来る前からドイツ語学習のサポートは始まっていて、日本を出発する前にある程度のレベルにまで引き上げてもらいます。
基本的には日本でA2のレベルまで勉強してからドイツに来ると、語学学校でもスムーズに授業に参加でき、B1、B2とレベルアップしていけます。最終的にC1までいった人もいました。もちろん、職種によっても求められるドイツ語力は全然違います。3年くらいかけてドイツ語をブラッシュアップしていき、ゲゼレ試験を受ける頃には語学も仕事も一人前になっていくようなイメージです。
鈴木:渡独前の準備段階からプログラム終了まで、サポート期間がすごく長いですね。
松居さん:プログラム終了後も、悩みがあればいつでも相談に乗りますし、研修中は参加者が働く会社の上司から相談を受けることもあります。
参加者は、ドイツ生活の中で様々な悩みを抱えますので、メンタルのサポートも大事です。中にはドイツ人の声が大きくて圧倒されてしまう人もいたりしますが、「気にしすぎないでね。それがドイツでは当たり前だから」と、ドイツと日本の習慣の違いやそれをどう受け止めるべきか、心の持ちようについてもアドバイスします。
ドイツに来たからには、やっぱり皆さんに「来て良かった」と思える成功体験を掴んでもらいたいんです。なかなか大変なサポートですが、最終的にゲゼレ試験に受かって、日本で自分のお店をオープンしました!とか、ドイツ在住中に家族ができました!とか、色々な人生を歩む人たちの姿を見ることができ、私たちのやりがいに繋がっています。
鈴木:YouTubeに公開されている、就職が決まったRyoくんへのインタビュー動画を見ました。就職が決まったRyoくん自身もすごく嬉しそうだったのですが、何より松居さんが本当に嬉しそうで!
私自身も、企業に就職する候補者のサポートの一環として面接のアドバイスや、英語やドイツ語での模擬面接を行うことがあります。やっぱり、面接って慣れが必要ですよね。海外に来て、初めて英語やドイツ語で面接を受ける時、どんな返答が期待されているか分からず不安になると思いますが、何回かやってみると要領が掴めてくるものです。サポートしたことが就職という結果につながると、私もすごく嬉しいです。なので、動画の中の松居さんの姿にすごく共感しました。
松居さん:彼のことはドイツに来た当初から手取り足取りサポートしてきたので、こんなに一人前になってくれたのかと、親のような気持ちでした。
―コロナ禍の影響は?サポートのある安心感の中で自立を促す
鈴木:コロナ禍では、これまでとは違った大変さがあったと思うのですが、どういったサポートが必要になりましたか?
松居さん:2020年3月にドイツに来たメンバーは、普通にドイツに入国できたんですけど、その直後からロックダウンがスタート。授業もオンラインになりました。でも皆さん、その時期をしっかりと乗り越えて、全員が就職しているんですよ。
手前味噌ですが、何かあった時に話を聞いてあげられる体制がありましたし、日本のお父さんやお母さんのご心配に対してもサポートができました。参加者達は割とドイツでケロッとしていたんです。
職業学校は一部オンライン授業になったものの、研修先の職場には通えて、現場でものづくりを学べたということが心の支えになっていたようです。
入国や、住民登録、口座開設、ビザの取得など各種手続きに関しては、コロナ禍においては提出書類が増えたり、手続きの流れが変わったり、直接窓口に出向けなくなる分手続き方法に変更があるなど煩雑な手続きが増えたのも事実です。
鈴木:ビザなどの手続きも、御社がサポートされているんですね。
松居さん:はい、語学学校と連携してしっかりサポートします。ビザが取れて初めて、皆さんが安心してドイツでの生活に集中できますよね。そこは私たちの存在意義でもあると思います。
鈴木:私たちも、日本からドイツに就職、または転職する方の就労ビザ取得については、状況に応じ、弁護士事務所にサポートをお願いしていますし、私たちが出来る範囲でのフォローもしています。「ビザ取得のためにサポートが必要な人は採用したくない」と、そこがハードルになってしまうことがあるので、採用企業側の負担感を減らすためにも弊社が間に入って、サポートするようにしています。
松居さん:よく分かります。弊社の場合には就職した研修先と語学学校と密接に連携をとり、手続きを進めていきますが、様々なイレギュラーが起きるので、やはりここは個人で乗り越えるのはかなり大変だと感じます。
私たちも、「サポートに入るから心配いらないよ」と研修先が不安なく採用できるようにしています。
鈴木:ここまで手厚いサポートがあると、本当に心強いと思います。
手工業の人材募集について、コロナ禍の影響を感じることはありましたか?ドイツ全体の求人件数としては、2020年はすごく落ち込み、もちろん、業種や職種によって差はありますが、2021年以降はだいぶ回復してきています。
松居さん:そうですね。受け入れ側のニーズは高まっていると思います。もちろん採用されるかどうか、最終的にはその人物次第です。日本人の場合は、言葉の壁がどうしてもあるし、習慣の違いもあって面談でうまくアピールできなかったり、職業体験の期間中にうまく職場に馴染めなかったりすることもあるため、初期の頃は特にフォローしていきます。
「一緒に働きたい」と思ってもらえるかが重要なので、コミュニケーション力がすごく大事です。足りない部分は、私たちが指導していきます。社会人として、ここドイツではどのように振る舞えばいいのか、どうやって人と仲良くなるか、若い参加者を育てていく気持ちです。
鈴木:コロナの影響で、参加者が渡航を心配したり、控えたりしたケースもありますか?
松居さん:入国制限がかかっていたので、やはりご両親の心配は大きかったようです。参加を1年延期した人も何人かいます。
ちょっとでも心配があるなら、来ない方がいいんです。心配な気持ちを無視して来ると、何かあった時に落ち込みやすくなったり、それだけでメンタルが弱くなってしまいます。それでも今年はほとんどの人が延期をせず渡独に至っているのは、嬉しいですね。メンタルが強い人たちが年々増えているような気がします。
鈴木:そうですよね。私も、ワーキングホリデービザで来て、ドイツで就職したいという20代の候補者をサポートする時は、「ご家族は賛成していますか?」と聞いたり、迷いや心配がないかの確認を行い、話を進めるようにしています。企業の方も、海外での経験が少ない方を採用する時は、結構慎重になります。
松居さん:中途半端に辞めたりすると、企業にも迷惑をかけることになりますし、「どうしても行きたい!」という強い意志が見えるといいですよね。
若い参加者にとっては自立のためのプログラムでもあるので、「親を説得できないようじゃ、ドイツで成功体験を積んでいくことなんてできないよ!」「ちゃんとドイツ語の勉強してる? 親から信頼を得られるような努力をできてる?」と、私たちも参加者と本気で向き合います。
―YouTubeでドイツの生活情報や日本との違いについて発信中!
鈴木:YouTubeへの動画投稿は、いつから始めたんですか?
松居さん:始めたのは2019年でした。コロナ禍になる少し前ですね。きっかけは、参加者から「ドイツに来る前に、もっとドイツの情報が欲しい」「現地での生活について知りたい」という声が多かったのと、ドイツに来た後も、「ドイツ人の対応が冷たい」としょげている人がいたり、色々な困り事を抱えていたので、もう少しドイツ人の性質を知っておいてもらいたいなと思って、動画を作りました。
鈴木:私が松居さんのチャンネルに気づいたのは、コロナが始まった頃だったような気がします。コロナ禍から今に至るまで、ものすごいペースでコンテンツを出されていて、内容もドイツ語のことから生活のことまで幅広く、さらにTikTokもしていますよね。
松居さん:時々、「動画、見てます!」って声をかけていただいて、視聴者の存在を実感します。何かしらお役に立てていれば幸いです。「会話が通じて嬉しかった」とか「動画の内容が実際に役立った」という感想をもらえるのも嬉しいです。
鈴木:今後、YouTubeはどのように運営していく計画ですか?
松居さん:一人でも多くの人に役に立つ動画をご紹介していきたいと思います。
動画自体が弊社のCSR、地域活動、社会活動の一部になっているため、ドイツでチャレンジしている幅広い人たちができるだけドイツでの暮らしのヒントになるようなことをこれからも皆さんにご紹介していきたいと思っております。
鈴木:日本とドイツの違いは、例えばどんなところで感じますか?
松居さん:大きな違いは、日本人はどうしても「指示待ち」になってしまうということ。いい子なんです。だから、「やれ」って言われたらやるし、何も言われなければやらない。そして何か質問や問題を抱えていても、秘めちゃっていることが多いんです。
そこをどうやって自分から声を上げ、文句を言われても何か一言、言い返せるようになるか。何かにつけて「ドイツ語が分かってないから」と言われたり、悔しい思いをするから、「ドイツ人の良さは根に持たないことなんだから、思い切って言い返してやったらいいじゃない!」「何かあったらサポートするから」って背中を押します。
一方で、規律や時間を守れる、一生懸命に取り組むなど、日本で当たり前だと思っていたことが強みになることに気づくこともありますよね。
鈴木:そこまで強くサポートしてもらえれば、勇気が出そうです。
―一歩を踏み出す勇気が、暮らしを豊かにする
鈴木:最後に、ドイツ留学や就職を考えている皆さんに向けて、メッセージをお願いします。
松居さん:海外でのチャレンジは、まさに未知の世界に入っていくようなもの。誰でも少なからず苦い経験もすると思うんです。でも、だからこそ、ほかでは得られない経験や達成感、喜びがあります。
色々な人と出会い、多様性に触れて、「君はそう考えるんだね」って国も文化も違う人に価値観や意見を尊重される機会に恵まれ、自分の強みが何かがはっきりすることもあると思います。
一歩を踏み出す勇気を振り絞ることによって得られるものは、計り知れません。興味がある人は、どんどんやってみたらいいよ!と思います。後悔しない人生を歩みたいなら、また、今のままで良いのかなって燻っているなら、ひと思いに飛び込んでみてください。
鈴木:私もドイツで働く方々をサポートしていますが、業種が違うと、また全然違う世界が広がっているんだなということを改めて感じました。ものづくりの世界、本当に魅力的な世界ですね。
本日はありがとうございました。
JACのコンサルタントは、転職支援に加え、内定確定後のサポートも行っております。
転職をご検討中の方は、新規ご登録のうえ、ぜひご相談ください。
ゲスト:株式会社ダヴィンチインターナショナル 代表取締役
松居温子さん
2013年に高野哲雄さんと共同でダヴィンチインターナショナルを設立。若い世代が希望と夢を持って自分のキャリアと人生を豊かにしていくため、ドイツの国家資格取得プログラムをサポートしている。そのほか、海外進出のコンサルティングや海外販路の拡大、YouTubeでの情報発信を行なっている。
ホスト:JAC Recruitment Germany シニアコンサルタント 鈴木彩子
JAC Recruitment Japanで約4年間の経験を積み、マルタ共和国へ英語留学。当地で現地採用され、2011年からヨーロッパでのキャリアをスタート。ドイツへは2017年に渡り、現在、JAC Recruitment Germanyに所属しています。