「ドイツで働く」をテーマに、各分野のエキスパートと対談を重ねてきた同企画。
2022年の幕開け第一弾となる新春コラムは、番外編と称して「海外で働く」皆さんをサポートするJAC Recruitmentのコンサルタントが英国とドイツから集い、「ワーキングホリデー」をテーマにお話しします。
海外に行ってみたい!と意欲的に情報収集をされている若い読者の皆さんにとって、海外で働く、学ぶ、遊ぶ、を実現できるワーキングホリデービザはとっても魅力的な制度ですよね。
もちろん、ひと口に「ワーキングホリデー」と言っても、申請方法から現地で得られる仕事、日常生活にいたるまで、国によって千差万別。どの国でワーキングホリデーを申請しよう? おすすめの国はどこ? と、お悩みの方もいらっしゃるでしょう。
今回は、ワーキングホリデー制度を持つヨーロッパの国の中でも、不動の人気ナンバー1イギリスと、ワーホリ後の正社員採用も狙えるドイツ、2つの特徴的な国のワーホリ事情とコロナ禍の影響、2022年の最新動向をあますことなくご紹介いたします。
―コロナ禍におけるワーホリの受け入れ、渡航状況は?
鈴木(JAC Germany):番外編となる今回のゲストは、JAC Recruitment UKのシニアコンサルタント平岡さんと、現在イギリスのワーキングホリデービザ(YMS)でコンサルタントとして働いている山内さんのお二人です。よろしくお願いします。
コロナ禍以降、渡航予定を延期したり、キャンセルせざるを得なかったり、海外での就職や転職、留学を目指す皆さんにとっては、大変な状況が続いていますね。
そんな中、JAC UKではワーキングホリデービザ(YMS)で渡英される向けの「就職・新生活オンラインセミナー」を定期的に開催されています。参加者からはどのようなご相談が多いですか?
山内(JAC UK):このセミナーを最初に開催したのが2021年春のことでしたので、「コロナ禍で、どのようにワーホリの準備をしたらいいんですか?」「コロナは就職活動に悪い影響を及ぼしていますか?」と、新型コロナウイルスによる影響を心配する声を多くいただきました。
私自身、2021年1月という、まさにロックダウン真っ只中にワーキングホリデービザ(YMS)で渡英しているので、皆さんのお悩みや気持ちがすごくよく分かります。
2021年夏〜秋頃には一時的に感染状況が落ち着き、その時期に開催したセミナーでは、イギリスの良い所とかイギリス生活についての話にフォーカスできました。
平岡(JAC UK):2020年はやっぱり、渡英を延期された方が多かったと思います。でも、2021年春くらいからだんだんとワーホリの方がイギリスに戻ってきて、今はもうかなりの数の方がいらっしゃっています。当時、延期した方と、その後、新たに申請に通った方が同時に来ている感じですね。
鈴木(JAC Germany):そうなんですね。ドイツの場合は、まだあまりワーホリで渡独する方は戻ってきていないように思います。イギリスは「抽選に受かったから絶対に行く!」という特別な動機がある一方で、ドイツには抽選も人数制限もないからかもしれません。
2020年は一時的にワーキングホリデービザの申請自体が中止されてもいたのですが、2021年4月からまた申請できるようになっています。それでも、新たにワーキングホリデービザで渡独される方は少ないまま、という印象です。
そもそもドイツは、ワーホリの期限が1年間なので、コロナ禍が始まった頃にドイツにいた方はもう日本に帰っています。新しくワーホリの方が入ってこないので、飲食店のスタッフなど日系のサービス業では、以前よりも人探しが難しい状況が続いていると聞いています。
―実はこんなに違う!イギリスとドイツのワーホリ制度
鈴木(JAC Germany):ところで、イギリスでは、正式には「YMS(Youth Mobility Scheme)」というビザなんですよね?
山内(JAC UK):イギリス以外の国では、「ワーキングホリデービザ」と呼ばれているので、通称として「ワーキングホリデービザ」でも通じるのですが、正式名称は「YMS(Youth Mobility Scheme)」です。このビザの本来の目的としては、ホリデーの要素より、ワーキングの方が強いですね。
鈴木(JAC Germany):イギリスとドイツのワーキングホリデービザの違いは、抽選のある・なしの他、滞在期間も違いますね。イギリスは最長2年間で、さらに一社での雇用期間に制限がないというところもドイツとは異なります。
【イギリスとドイツ ワーキングホリデービザ制度の比較】
―ワーホリで、どんな仕事に挑戦できる?
山内(JAC UK):お仕事の内容で言うと、ドイツと似た傾向にあると思います。オーストラリアやカナダのワーホリはウェイトレスやクリーナーの仕事が中心になるのですが、イギリスでは企業でオフィスワークをするチャンスがあるんです。
平岡(JAC UK):ワーキングホリデービザ(YMS)の方向けの求人案件は、様々な業界からいただいていて、職種は一般事務とか、カスタマーサービスが多いですね。
鈴木(JAC Germany):なるほど。「YMSの方向けの求人案件」、つまりワーホリ期間中の採用を目的とした求人があるということですね。ドイツには、一つの職場での最長就労期間が6カ月という制限があるので、そもそも「ワーホリ向け求人」と言う考え方はないように思います。
*2023年更新:「一つの職場での最長就労期間が6ヵ月」という制限はなくなり、全期間に渡って同じ雇用主の元で仕事をすることが可能になりました。
ワーキングホリデービザを日本で取得して来た場合は、ドイツに到着してすぐに働けるので、急ぎの求人案件なんかだと選考で有利に働くこともあります。もちろん、まずはアルバイトをしながらドイツに慣れようと思っている方にも使い勝手がいいビザです。
平岡(JAC UK):一つの会社で6カ月しか働けないということは、「ワーホリの方をお願いします!」という求人はほとんどないんですね?
鈴木(JAC Germany):ないですね。
平岡(JAC UK):それは、本当にすごく大きな違いだと思います。イギリスでは、オフィスワークでも「ワーキングホリデービザ(YMS)の方限定」のポジションがあるんです。YMSの方は、すごく優秀で、ビジネスマナーもしっかりしていると評判で、本当に重宝されています。
鈴木(JAC Germany):そうなんですね!それはドイツではないです。大きな違いですね。求人案件は、ワーホリでスタートだとしても、どの道、就労ビザに切り替えることが前提なので、そのポジションに合う方かどうかっていうことを見られています。観光ビザや語学学生ビザの方でも、採用後、ドイツで就労ビザを取得されています。
平岡(JAC UK):なるほど、ずいぶん違いますね、びっくりしました。
―ワーホリが終わった後はどうする?ビザの話
鈴木(JAC Germany):ドイツのワーキングホリデービザの申請は、世界中のどこのドイツ大使館・領事館からでもできます。日本国籍の方の場合、観光ビザでドイツに入ってからでも申請できますし、語学学生ビザからの切り替えもできる。ビザの切り替えはかなりフレキシブルにできるんです。
平岡(JAC UK):JAC UKにも、ドイツで1年ワーホリをして、次にイギリスに挑戦なさるっていう相談者の方、結構いらっしゃるんですよ。最近も何名か、ドイツのワーホリで日本食レストランに勤められ、そこで就労ビザを取得した方とお話ししました。
鈴木(JAC Germany):飲食店でのお仕事でも就労ビザを取得できますし、例えば「ワーキングホリデービザの期限は切れるけど、もっとドイツにいたい」と思った時に、働いていた飲食店などで就労ビザを取得できる方もいますし、オフィスワーカーへの転職活動をして、それが決まれば、必要に応じてその会社で働くための就労ビザに切り替えることもできます。
UKでもワーホリ期間中に採用され、その後、正規で雇用される可能性は、ゼロではないんですよね?
平岡(JAC UK):はい。もちろん、ゼロではありません。でも、そんなに簡単なものでもないんです。そもそもイギリスは、結婚していてもビザを取るのが難しいくらいの国ですから。就労ビザっていうのは、IT、金融関連のよほど特殊なスキルをお持ちの方とか、もしくは寿司職人のような手に職のある方でないとなかなか難しいです。
もちろん、実際にワーキングホリデービザ(YMS)で働いている間のパフォーマンスが素晴らしかったと、企業がスポンサーして就労ビザを取得したケースも知っています。ただ、求人の際に最初から「ビザのスポンサーをします」と言っているところはほとんどありません。
鈴木(JAC Germany):なるほど。だからこそワーキングホリデービザ(YMS)の期限限定のお仕事があるということですね。イギリスでのワーホリが終了した後は、皆さんどうされるんですか?
山内(JAC UK):8割以上は日本に帰ると思います。今はコロナ禍で少ないですが、以前はワーホリでさらに他の国に行くという話もよく聞きました。
平岡(JAC UK):ワーキングホリデービザ(YMS)の方で、2年の期間が終了した後もイギリスに残りたいという方は多くて、たくさんお問い合わせをいただくんですけど、なかなか簡単なことではありません。
とは言え、2020年12月にブレグジット(EU離脱)の関連でビザに関する法律が変わりましたし、だんだんとビザ取得のハードルは下がっているようです。以前は、「3万ポンド以上」だった条件が、今はもう「2万2000〜2万3000ポンド」まで下がってきていると聞いています。
山内(JAC UK):会社がビザ・スポンサーシップを持っていることが前提となりますね。その上でワーキングホリデービザ(YMS)の方を雇い、2年間のパフォーマンスを見て、ビザが切れる3〜4カ月前に正規雇用を検討し、ビザのスポンサーをするという流れだと思います。
鈴木(JAC Germany):ドイツが欧米では一番、正社員就職の可能性があり、ビザの取得のチャンスもある場所ということで、イギリスやアイスランド、カナダやオーストラリアでのワーホリが終わって、ワーホリ二ヵ国目としてドイツを選び、正規雇用を目指したいという方からのご相談もたくさん受けます。
―求められる語学力のレベルは?
鈴木(JAC Germany):ワーキングホリデービザ(YMS)の方向けの事務やアシスタントのポジションで求められるスキル、英語力はどのようなものですか?
山内(JAC UK):もちろん、ポジションによっても必要な英語スキルは違うんですけど、YMSセミナーでは「最低でもビジネスレベルはあったほうがいい」ということはお伝えしています。
そのビジネスレベルっていうのが、「TOEICで800点以上」を指すんですが、実際にはそこまで高い英語力を持っていない方もいます。そう言う方には、「人柄やご経歴をより重視してくれる案件もありますよ」という話をします。
実際、TOEIC は600点台、でもすごく人柄の良い候補者さんがいらしたんですけど、ちゃんと採用が決まりました。英語のスキルだけが選考基準じゃないという側面はあります。
鈴木(JAC Germany):英語がまだビジネスレベルでない方の採用が決まったということは、お仕事はほぼ日本語のみで対応できるということですか?
平岡(JAC UK):ワーキングホリデービザ(YMS)の方限定のポジションでは、そこまで高度な英語力は求められないことも多いです。逆に、高度な英語力が必要になるポジションで、YMSの方は採用されません。
山内(JAC UK):高度な英語力があるに越したことはないけど、マストではなく、プラスアルファとして評価される感じですよね。
平岡(JAC UK):もちろん、英語で日常会話もできないような方はちょっと難しいとは思います。
鈴木(JAC Germany):なるほど、その辺も英独で状況が違うかもしれません。イギリスのワーキングホリデービザ(YMS)向けの求人ですと、日本でオフィスワーク、事務などの経験があると、同じような仕事が決まりやすいですか?
平岡(JAC UK):はい。一つの会社で数年間、事務をやっていたような方が一番スムーズに決まるかと思います。
鈴木(JAC Germany):ドイツだと、オフィスワークのポジションで高い英語力を求められることも多く、それにプラスして、ドイツ語も求められます。日本語と英語だけで採用の可能性があるポジションもありますが、業務未経験の方はなかなか難しく、例えば貿易事務の経験者採用や、即戦力となる方の営業ポジションなどではチャンスがあります。
総務や事務、経理になると、色々な方面とのやり取りにドイツ語が必要になります。即戦力となる業務経験はなくてもいいけど、言語は日独英が必須とか、やっぱりドイツ語がどれくらいできるかで仕事の見つかりやすさに差が出てきます。
平岡(JAC UK):実際に、ワーホリの方で、すでにドイツ語を話せる方っていらっしゃるんですか?
鈴木(JAC Germany):もちろん、多くはないのですが、それでも、勉強されてる方は割といらっしゃるんですよ。
日本の大学でドイツ語を専攻していて、いつかはドイツに行こうと思っていた方、大学時代に交換留学した先がドイツだったという方も結構多いです。こういう方々はドイツ語がすでにできるので、就職は決まりやすいと思いますね。
ワーキングホリデービザで来られる方の中には、中長期的なプランでドイツ就職を目指している方もいます。まず1年目は語学の勉強に集中し、アルバイトをしながら語学学校に通い、ビジネスレベルに語学力を上げて、2年目以降に就職を目指すプラン。実際に、それで正社員採用を実現された方もいらっしゃいます。ワーホリで入ってきた方と、ドイツにすでに長く住んでいる方とが同じ土俵で、同じポジションの選考を争うこともある状況です。
―ワーホリで味わえるそれぞれの国の魅力
鈴木(JAC Germany):イギリスのワーホリの魅力は、なんだと思いますか?
山内(JAC UK):仕事をしてもいい、旅行してもいい、勉強しに学校に通ってもいいっていう、こんなに何をしてもいいビザってワーホリ以外にはないですよね。
しかも、イギリスの場合はそれが2年間ある。やっぱり1年だけだと、瞬きしている間に終わってしまう位な感じだと思うんですけど、2年あれば、1年目にできなかったことは次の年でトライできる。私はそこが最大の魅力だと思います。
人数制限についても、以前は1000人だったのが1500人に増えたんです。抽選で当たる確率が上がり、以前より多くの人が渡英できるようになったことも、今のイギリスのワーホリの魅力です。
鈴木(JAC Germany):ドイツのワーホリの魅力は、ビザのフレキシブルさ。正社員採用に繋がって、その後の就労ビザへの切り替えがしやすいというのは、魅力の一つだと思います。
また、ドイツは給料と物価のバランスが割と良いのかなと感じます。ワーホリビザで来たとしても、現地採用の方と同じポジションなら同じような給料がでますし、家賃や生活費が欧州の他の大都市よりも比較的低いので生活にゆとりがあるというか。やっぱりイギリスの、特にロンドンの方から転職のご相談を受けているときに感じるところです。
山内(JAC UK):それは、本当にその通りですよね。私自身、ドイツでのワーホリを検討したこともあるんですが、その時に一番魅力的だと思ったのが金銭的なところ。ドイツに入国してみてから、ワーキングホリデービザを申請するかどうか決められるのも魅力です。
鈴木(JAC Germany):実際、すごく生活費が高いということを考えたとき、イギリスで出ている求人の給与レンジって、結構シビアな金額だな、と感じることがあります。
平岡(JAC UK):そうなんです。家賃や交通費だけでなく、食費がまた高くて……。ワーキングホリデービザ(YMS)の方に限らず、長く住んでいる人にとっても大変だと思うんです。でも、外国人としては住みやすい国ですよね。
山内(JAC UK):はい。あとはやっぱり、イギリスやイギリス英語に対して、かっこいい!と憧れのようなものを抱いている方も多いように思います。その憧れの場所に住めるということも大きな魅力です。
鈴木(JAC Germany):「ワーホリ」と言っても、国によって大きな違いがあることを、今回また改めて感じました。これからもヨーロッパでの就職や転職を目指す皆さんをサポートできるよう、一緒に情報発信していきたいですね。
今日はどうもありがとうございました!
ゲスト:
JAC Recruitment UK シニアコンサルタント 平岡 美栄
語学留学で渡英。ロンドンの日系・英系企業での経験を経て、2017年よりJAC Recruitment UKに所属。様々な業界・職種を担当。
JAC Recruitment UK コンサルタント 山内 絵美香
大学時代のオーストラリア留学を経て、日本では留学カウンセラーとして勤務。イギリスやアイルランド、マルタやドイツなどの欧州をはじめ、アメリカやカナダ、オーストラリアなどの留学カウンセリングも行う。2021年1月にイギリスにYMSビザにて渡英、現在、JAC Recruitment UKに所属。
ホスト:
JAC Recruitment Germany シニアコンサルタント 鈴木彩子
JAC Recruitment Japanで約4年間の経験を積み、マルタ共和国へ英語留学。当地で現地採用され、2011年からヨーロッパでのキャリアをスタート。ドイツへは2017年に渡り、現在、JAC Recruitment Germanyに所属しています。
構成・文:高橋萌